黒岩荘日記

日記です

フランク・エバンス

祭りの余韻ほど人を切なくするものはない。

日曜の晩のあの最高の音楽体験を糧に、今週もがんばるぞ!と息巻いたのも虚しく、今の僕に残っているのは切なさというよりも完全な「無気力」だ。なにもしたくない。許されるのであればなにもせずにいたい。この圧倒的な無気力の根源を見つめ直そうという気力すらない。八方塞がりだ。とりあえず人間らしく生きるために仕事をし、飯を食い、洗濯物を取り込んで畳む。普通に、人並みに、生活することがこんなにも面倒だなんて。そんな風に考えてしまう自分自身がショックだった。

洗濯物を畳みながら、なにかレコードでも聴こうと引っ張り出したフランク・エバンスというジャズギタリストのアルバム。友人のお父様から譲り受けたレコードだった。寒色の、素朴なジャケットがまさに今の自分自身の心象風景みたいだったからか、何となく手に取って、そろそろガタのきているシェルを摘んで、なげやりな気持ちで針を落とした。

A面の一音目で、『あぁ、今の俺に必要だったのはこの音だ』と確信した。体の底から、何かがじわじわと流動し始めたような感覚すらあった。同時に、何を悩んで何に不安がっていたのかも忘れてしまっていた。手に持っていたパンツを丁寧に畳んだ。

オーバーダブされたギターのみで奏でられる寂しげな音は、一昨日の夜の熱狂そのものみたいなあの音像の、まったく対岸にあるものみたいに思えた。ジャズが、というより、ジャズギターが。いやむしろこのアルバムが、圧倒的に今の自分に不足していた栄養素だと分かった。分かったので多分もう大丈夫。

正直僕はこのフランク・エバンスという人がどんな人なのかも知らない。ジャズの体系の中でどんな立ち位置にいる人なのかも、このアルバムがどんなコンセプトのもと吹き込まれたかも何もかも知らないけど、少なくとも今日この人に、大いに救われた。ありがとうフランク・エバンス。

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追記:フランク・エヴァンス

70年代頃に活躍した英国のジャズギタリストとのこと。70年代のジャズといえば当時興隆を極めたロック音楽の波に乗るか抗うかの選択を余儀なくされた、いわば辛酸を舐めた時代だ。そんな時代のさ中での、めちゃくちゃ王道で(選曲も)クラシカルなアルバムだから、あんまり売れなかったのだろう、ネット上に情報もほとんどない。当時としてはあまりに真っ当なジャズ。あまりに真っ当な戦い。

大きな波に果敢にも立ち向かって、結局木っ端微塵になってしまったんだろうと思う。50年くらい前の録音物にこんなにも心打たれるのは、そんな背景が音の中に見え隠れするからかもしれない。