黒岩荘日記

日記です

ひみつ

母の仕事の付き添いで栃木へ。つけ麺の汁を薄めてつけ麺の麺をぶち込んだみたいなラーメンを昼に食べる。美味しかった。帰り道にお互いコーヒーが飲みたくなり、洒落たキッチンカー(移動カフェ)が横付けされたこれまた洒落た栃木土産屋で一息つく。コーヒーもとても美味しい。天気が良くて、すこし前向きな気持ちになった。

 

地元の病院へ祖父の顔を見に行く。肺炎との知らせを受けていたので心配していたが、施設にいた頃と変わらない様子だったので胸を撫で下ろす。数年前からボケてしまってもう誰の顔もわからない。受け答えみたいな声はだすものの、何もない虚空を、一点凝視している。何かを見ているようで、何も見ていないのだと思う。辛くて暗い、でもどこか懐かしいような気持ちに後ろ髪を引かれそうになり、『もう行こう』と言って病院を出た。

 

実家の庭の、木材を新調したばかりのベンチに腰掛けて、妹と好きなアイドルについて語り合う。妹はイコールラブを、僕はNegiccoについて熱く語った。風は涼しく、気持ちのいい夕暮れ時。熱く語っているあいだ蚊に刺されたらしく腕が痒い。どうやら夏はもうすぐそこまでやってきていて、蚊はその先鋒隊のようだ。夕方は少しずつ後ろに追いやられ、影は日に日に縦に大きく伸びていく。いちばん好きな季節がもうすぐやってくる。

 

遅い時間に家に着くと、メルカリで買ったスカートの『ひみつ』のアナログ盤が届いていた。とんでもない値段がついていたが、以前からどうしても手に入れたかった一品だった。妻への後ろめたさと少しばかりの後悔が、全くないかと言えば嘘になる。現在無職の人間には途方もなく大きな買い物だ。缶ビールをあけて届いたばかりのレコードに針を落とし、ニトリで買ったチープな座椅子に身を沈める。CDとMP3が擦り切れるほど愛聴したアルバムだったが、全く違う音のように響く。レコードで聴いてこそのアルバムだ、買ってよかった、ほんとに買ってよかった、後悔はない、と自分に言い聞かせる。値段のことは妻にもひみつのままだ。